**『いつもの顔』**
「焔霞さん、また飲んでるのかい?」
「『また』とは何だい。お前さんだって昨日もいたじゃないか」
常連客の言葉に、焔霞は杯を片手に笑い返す。
「違いねぇ! じゃあ乾杯だ!」
「まったく、しょうがないねぇ」
笑い声と杯の音が重なる。
月見川町の夜。今宵もいつもの店は賑やかだ。

**『いつもの顔』**
「焔霞さん、また飲んでるのかい?」
「『また』とは何だい。お前さんだって昨日もいたじゃないか」
常連客の言葉に、焔霞は杯を片手に笑い返す。
「違いねぇ! じゃあ乾杯だ!」
「まったく、しょうがないねぇ」
笑い声と杯の音が重なる。
月見川町の夜。今宵もいつもの店は賑やかだ。
**『朝の港』**
月見川町に、小さな漁港ができた。
朝日が海を染めるころ、焔霞は船揚場に立って、しばらく水平線を眺めていた。
「いい天気だねぇ。今日もい
い日になりそうだ」
背後では、もう漁師たちの声が飛び交っている。
町にまたひとつ、いつもの景色が増えた。
**『鰯の頃』**
秋の夕暮れ、囲炉裏のそばにいい匂いが満ちている。
鰯を生姜でことこと煮て、小鉢を添えれば支度は上々。
焔霞は徳利へ手を伸ばし、満足そうに目を細めた。
「さて……いただこうかねぇ」
鰯の日。
美味い肴がある夜は、酒だって少しだけ美味くなる。
**『お裾分け』**
「今年のは、うまく漬かったのよ」
差し出された漬物をひとつ、焔霞は口へ運ぶ。
ぱり、と小気味いい音。
「ん、美味しい。塩加減もちょうどいいねぇ」
「そう? じゃあ少し持って帰りなさい」
「いいのかい?」
「どうせ今晩のおかずにするんでしょ?」
焔霞は少しだけ目を逸らした。
「……酒の肴にもなるねぇ」
「やっぱり」
秋の午後、縁側に笑い声がこぼれた。
**『月見酒』**
「今夜は月が綺麗だねぇ」
縁側に腰掛け、焔霞は煙管をくゆらせる。
月見団子をひとつ摘まみ、徳利へ手を伸ばした。
「団子に酒って合うの?」
どこからか声が飛んでくる。
「細かいこと言うんじゃないよ。月があって、酒がある」
杯を満たして、もう一度夜空を見上げる。
「それで十分、いい夜だろ?」
今宵は、中秋の名月。
**『今日のおすすめ』**
「焔霞さん、今日はじゃがいもがいいよ」
八百屋の奥さんに言われ、焔霞は籠の中を覗き込んだ。
「ふぅん。じゃあ、これ貰おうかねぇ」
「何にするの?」
「蒸して塩。それで十分だろ?」
「夕飯に?」
焔霞は少し考えてから笑う。
「……酒の肴に」
「やっぱりねぇ」
月見川町、本日のおすすめは新じゃがです。
**『朝餉』**
朝の台所に、味噌汁の湯気が立つ。
焔霞は網の上の鮭へトングを伸ばした。
「あっつ……!」
思わず手を引っ込める。
「まったく、朝っぱらから元気な火だねぇ」
狐だからといって、火に強いわけではない。
鮭を返して、味噌汁をひと混ぜ。
いつも通りの朝である。
『焔霞さんの町暮らし』