雲の厚さが
指の根元まで届く
町の奥で
傘をたたむ音
栗の皮が割れて
中身を見せている

軒先で洗い物をしている
手が冷たくなってきた
水の流れが急になったようにも見える
つるぼけの実が
雨粒をいくつか抱いて
ぶら下がっている
指先で触れるまでもなく
季節が変わるのが
わかる
軒先の水盤に
栗の実ひとつ落ちている
まだ暗いうちに
誰かが拾ったのか
そのままなのか
白みかけた空を見上げてから
また下を向く
霧の中を
鴨が水音ひとつ立てて
川面へ下りていく
その姿も
音も
やがて白さに溶ける
夜明けの町並みの軒先で
雲の隙間から光が降りてくる
衣替えを終えた衣桁の上で
布地が微かに動く
その淡い色合いが
まだ暗い部屋の中で
息をしているように見える
夜の町を歩いて
通りの灯が
ぼんやり滲む
傘を畳みながら
頬に触れる
秋の湿り気
誰かの窓に
映る自分の肩
夜更けて雨は
やわらかく打つ
軒の奥行きに
栗を剥く音
指先の白さ
暗いなかでも
見えている
暁の空がほのかに明けて
軒端の雨水が
ぬるくなってきた
鳥の声が
二つ三つ
重なるところで
雲の切れ間から
朝顔の蔓が
昨日より伸びている
塀越しに
月がのぞいて
路地の石が
白くなってゆく
秋の夜
手を引く誰かの
肩がそっと動く
夜深く
軒の下で
葛の根元をなぞる
指先が冷たくなって
霧が降りてくるのを
知る