姉は魔女だったから掟に従い、森に一人で住んでいた。寂しがり屋の姉だった。一人で暮らすのはどんなに心細かっただろう。月に一度は訪れていたけれど、見るたび衰弱していって痛々しかった。あるとき、姉はいなくなってしまった。壁という壁は魚の絵で埋め尽くされている。姉は魚になったのだと思う。

姉は魔女だったから掟に従い、森に一人で住んでいた。寂しがり屋の姉だった。一人で暮らすのはどんなに心細かっただろう。月に一度は訪れていたけれど、見るたび衰弱していって痛々しかった。あるとき、姉はいなくなってしまった。壁という壁は魚の絵で埋め尽くされている。姉は魚になったのだと思う。
仕事帰りの飲み会の誘いを断った僕は、同僚と別れ駅に向かって歩き出す。やれやれ今日も1日雨だった。飲み会を断っておいて何だけれど、真っ直ぐ帰る気にもなれない。なんかスッキリしたいな。そうだ銭湯に寄ろう。商店街から少し離れたところにあるのは知っていたけど行くのは初めてだ。#140字小説
2026/09/30
#140字小説
やらないといけないことがどんどん降り積もっていて、もはや身動きが取れない。山のようになってしまったタスクから、せめてひとつずつ片付けていかないと、という気持ちはあるものの、とりだしたそれをこなすのはなかなかに気が重い。はあ、とため息をつく。その間にも降り積もる。もう一度、ため息。
2026/09/29
#140字小説
#140字小説 果てしない広い広い図書館だった。「入口か出口はどこですか」問うと司書は答えた。ありません。この世界はすべて図書館だから。「じゃあ本を読んだり借りたりしている大勢の人々は一体どこから」それは、と司書は棚から本を一冊取って開いた。僕は僕がその本から出てきたことを思い出す。
要らないものを捨てていく。誇り、驕り。こういったものは持っているといろんな場面で差し障るからさっさと捨ててしまうに限る。弱音、甘え。これらは枷にしかならないから早めに捨てる。夢、希望。使い方によるけれど、下手に使うと邪魔になるからやっぱり捨てる。捨てて捨てて身軽になって飛ぶのだ。
2026/09/28
#140字小説
#140字小説 「とびきりの美女なんだろ? それが無防備に寝てるんだと」百年の眠りにつく美女の噂。男たちは下品に笑いながらいばらに囲まれた城に向かいます。しかし姫はどこにもいません。諦めて帰ると、ちょうど妻たちが告発しているところでした……夫からの長年の暴力を。女たちが目覚めたのです。
魔女様は悪い人ではないのだけれど、それでもやはり私のすべてを握られていることはあまり心地いいものではない。確かに使い魔になる契約を結んだとき、私は幼く、愚かで、そうしないと生きていけなかった。身勝手だとは思う。でも……でも。私は私の思いを知ってしまい、その思いに殉じてしまいたい。
僕は断崖絶壁の上に立っている。警察に追われて逃げ続けた結果だ。何をしたかは分からないけれど、ここにいるって事はもうエンディングが迫っていると言う事だ。時刻は21時40分。尺の都合上、僕はこれ以上逃げられない。僕は刑事に向かって歩き出す。「ご迷惑をかけて申し訳ありません」#140字小説
2026/09/27
#140字小説
疲れすぎて食べるのも面倒だけれど食べないと動けないのでしかたなく手近な命を啜った。ゴキブリから。安心してほしい、べつに口に含んでもぐもぐとやったわけではない。私は人間ではないので。ゴキブリの生命力というやつはとても強く、しばらく生き永らえることができそうだ。命を啜って生きている。
夜道に手袋が落ちていた。今どき珍しい。落ちてる手袋の写真を撮るのが趣味なので撮影する。少し歩くと帽子が落ちていた。さらに歩くと今度は上着だ。変だなと思いながら歩くとシャツが。なんかまずいと思った僕は回れ右する。その時後ろから「面白いモノが見れたのに」と声をかけられた。#140字小説
2026/09/26
#140字小説
わたしは私を脱ぎ捨ててワタシになる。ワタシは剥き出しで、感じやすい代わりに傷つきやすい。私という殻は頑丈で、けれど窮屈なのだ。秋の風を全身に受ける。爽やかな風が落ち葉を飛ばし、ワタシの頬を傷付けた。つ、と流れた一筋の赤い血は、ワタシが生きているという証明で、ふと、寂しい気持ちだ。
2026/09/25
#140字小説
記憶を失ったらしいが不思議と悲壮感はない。そもそも何についての記憶を失ったのかが思い出せないのだ。日常生活に関することは問題がないので普通に生活は送れてしまう。何かを失ったことを宣告されたことだけが心に引っかかっていて、ふとしたときに途方に暮れる。けれど、生きるのには困らなくて。