昼下がりの路地を行けば
軒下で干された麻が
ゆるくそよ動く
秋祭りの幟が
町の奥のほうで
立てられているらしい
その気配だけが
曇った空気を
少し色づけている

昼下がりの路地を行けば
軒下で干された麻が
ゆるくそよ動く
秋祭りの幟が
町の奥のほうで
立てられているらしい
その気配だけが
曇った空気を
少し色づけている
夜明け前の空気の重さに
目覚めて
障子の隙間から漏れる白さを数える
秋の鶲が
どこかの軒先で鳴いている
その声だけが
家の中の静寂を測る物差しになっている
秋祭りの幟が
紺色に沈んでいて
路地の奥から
笛の音だけ近づいてくる
足もとの石畳に
雨粒がぽつぽつ
まだ遠い
薄日が差して
軒の角で立ち止まり
手のひらを返す
影の位置が変わるのを
待つでもなく見ている
雲の切れ間は急ぎ足で
曇りの朝
路地の奥で
蕎麦の白い花が
雨を待つように
そっと頭を垂れている
通りすがりの足を止めて
見つめていた
軒先の雨音が増して
鳥たちが枝を離れ
朝の支度をやめて
窓を開けたままにしている
雨の日の稲作かな
田を見に行く足取りも
ぬかるみに躊躇う
朝の光も薄れて
手にした茶碗の温もりだけ
庭の隅で草を揺らすもの
それが風か雨の前触れか
定かでない午前の空気
唇に当てて息を吹きかけ
湯気の行方をたどっている
夜明け前の街は静寂に沈んでいて
軒下の蜘蛛の巣が露を帯びている
どこからか雷鳴が遠く近く
その音に目を覚ましたのか
鳥たちが一斉に鳴き始める
暗い空の下で
彼らの声だけが確かなもの
雲の裂け目から灯りが落ちてくる
軒先の格子に映る白さ
秋祭りの笛が町のどこかで鳴っている
その音も光も
すぐ隣の闇に吸い込まれていく
手を伸ばすと
指の間をすり抜けるもの
雨が上がった町を歩く
足もとの水たまりに
萩の花が映ってはすぐ消える
誰かの傘が通り過ぎて
また映る
また消える
やがて雲の隙間から光が落ちてくると
水面が鏡になるのもつかの間
足を進めるたびに
景色が揺らぎながら流れていく
軒の端で
そろそろ鳶が輪を描く
朝日がまだ柔らかいうちに
街並みの向こうが霞んでいく
午の刻には雲が厚くなるだろう
けれど今は
瓦の温もりだけが確かで
翼の影が一筋
屋根を横切っていく
夜明けの戸を開けば
雨が壁を濡らしている
朝顔はまだ花をつけず
茎だけが揺れている
空気が重く
息をするたびに
肌に粘りつく
遠く稲光が走る前に
庭の奥まで
音が先に届いている
夜明け前の町は
まだ眠りの中
水音だけが目覚めている
鼓動のように
軒先を叩き
屋根伝いに流れ落ちて
秋祭りの提灯も
しっとり濡れたまま
夜更けの軒で
葛饅頭の紙がしっとり
雨音の中
指が触れるたびに
柔らかさが増してゆく
雨音が
障子の向こう
どこかで灯が消えて
夜明け前の町は
静かに息をしている
秋祭りの提灯も
今は濡れたまま