【350】
揺れる天秤に心が載っている
止まらない揺れは不安定な気持ち
重い重りは終わりたいという感情
軽い重りはどこまでも飛んでゆけるという感情
どちらでも危険らしい
天秤は揺れる
もう手放してしまえと思うけれど
この天秤がないと指針がないの
心の重さも分からなくなるの
今日も重りを足したり引いたりして
釣り合うように揺れている
絵・文:茅野カヤ
【お題】十二星座・天秤座

【350】
揺れる天秤に心が載っている
止まらない揺れは不安定な気持ち
重い重りは終わりたいという感情
軽い重りはどこまでも飛んでゆけるという感情
どちらでも危険らしい
天秤は揺れる
もう手放してしまえと思うけれど
この天秤がないと指針がないの
心の重さも分からなくなるの
今日も重りを足したり引いたりして
釣り合うように揺れている
絵・文:茅野カヤ
【お題】十二星座・天秤座
【349】
身体中の螺子が軋む
油を差さなきゃ
跳んだり跳ねたり
今はできないな
それでも日々は過ぎてゆくから
爪の先をリズムに乗せて動かす
パタパタって音がする
修理屋さんを呼ぶコール音に重なる
繋がった電話に安堵する
絵・文:茅野カヤ
【348】
海蛇の鱗が光る
深海に光は届かないはずなのに
自ら発光している
海蛇は上を見る
暗闇が広がっているだけ
その眼は透明で海の色に染まっている
それでも鱗は光り
その存在をおぼろげに確かにする
僕らは暗い世界でも存在する
色も光り方も眼の色も違っていても
確かに存在する
絵・文:茅野カヤ
【347】
重たい花弁がひらく
君の腕のアザみたいな色
だからやさしく撫でる
長雨に濡れた花弁から
水滴が落ちる
君が泣いていると気づいたのも
その時だった
今更、と自嘲する
生きているだけで傷つけるのを
まだ受け入れられない
絵・文:茅野カヤ
【346】
星空が足下にあるので
僕はもう死んだのだと思った
でも僕が逝くなら地獄だろうと
だから不思議だった
これが夢だということに気づく前に
地獄の天井は天国の底じゃないかと思った
それならば此処はその境目
広がるのは星空
地獄にも星が瞬くのだと知った
絵・文:茅野カヤ
【345】
夜の底で息継ぎができない
水面を見上げる
苦しいはずなのにどこか穏やかで
嗚呼、これが死なのかと思う
そんな夜を幾度も越えて
今、生きている
未だに息継ぎは上手くできないけれど
水面を見上げて途方に暮れることも減った
海底の生き物たちと少しずつ
対話するようになった
僕らは違う生き物だけれど
この世界に生きている、ということだけは
唯一同じ
夜の底が、思いの外広大なことに
今更気づいたのだ
絵・文:茅野カヤ
【344】
雪が降る、夢を見た
まだ蒸し暑いのに
カーテンを開けたときの眩さ(まばゆさ)が
網膜に残っている
降り続く雨が
窓に水滴を流してゆく
流水線をなぞる
もうひとりの僕はまだ眠っている
まだ踏み荒らされていない雪を掬う
冷たい手が
窓の冷たさと重なる
絵・文:茅野カヤ
【343】
光、
君の中に在るその眩さに
僕は救われたのだ
羨望も妬みも押しやって
ただただその灯りが胸を締めたのだ
だからあの絵を描いた
だからあの手紙を書いた
だけどそのすべてが君を苦しめたのなら
僕は何も言わず離れるしかないのだろう
読み返せない手紙は
今も手帳に挟んである
絵・文:茅野カヤ
【342】
遠く静かに失われる
時の、存在の、大切の、
僕らの繋がりの、
断絶を指先で撫でる
感触を心に留める
いつかそれは失われてしまうもの
だから手を繋ぎたかった
あたたかい手を
覚えている
絵・文:茅野カヤ
【341】
雲の隙間から陽光が顔を出す
まるで世界の終わりみたいに
週末には絵を描く
非日常のようでいて穏やかな日常で
ずっとこんな日が続けばいいのにと
思う日もあれば
今すぐにでも
僕の世界が終わってしまえばいいのにと
思う日もある
ジェットコースターみたいな日々は
まだ終わらないみたい
憂鬱な鈍行はゆっくり坂を上る
絵・文:茅野カヤ
【340】
いつかあの海で会おうねって
約束した
それだけで生きる理由になった
それでも
変容していく現実は残酷に
いつかの海は消えてしまった
何処にゆけばいいのだろう
ずっと途方に暮れていた問いが
再び浮上する
死んだら何処にゆくのだろう
僕は何処にゆけばいいのだろう
引く線が滲む
頭を占めるのは永久(とわ)の問い
絵・文:茅野カヤ
【339】
落ちる雨にしおれた花が濡れる
したたる水は流れて地に吸い込まれる
世界は巡ると
言い聞かせられた
それは君も巡るから大丈夫という
意味だったと今は思う
また次の季節に花は咲くだろうか
嫌いだった桜のように
咲いて散ってくれるだろうか
雨粒が目に入って泣いている
君が巡るように僕も巡る
そう在りたいのに
絵・文:茅野カヤ
【338】
光の地を走る
夢だって気づいているのに
僕はとても幸福だった
誰かがシャッターを切る音がする
振り返っても見回しても誰もいない
ふとてのひらに重みを感じた
昔使っていたフィルムカメラが手の中にある
ファインダーを覗くと
光が反射して視界いっぱいが光の海だった
誰もいないことに幸せを感じていた
僕ひとりの光の場所
きっとフィルムは入っていない
目を凝らして目に焼き付ける
風が光を揺らしている
絵・文:茅野カヤ
【337】
雨花ひらく
花弁の上の水滴を吸う
満たされたのなら飛び立つ
その瞬間に花弁が揺れ
水滴は跳ねるように散る
覗いていたルーペから目を離す
空が青い
いつの間にか雲が切れていた
まるで視界すべてが青に染まったように
青空だった
僕はいつの間にか小さくなって
青空に覗かれている
絵・文:茅野カヤ
【336】
花が
曇り空に散った
それはいのちだった
世界は残酷で
やさしいのだと教えてくれた
今もたたかう人々は
いつだってたたかうのをやめてもいい
生きているだけで
苦しいのだから
生きているだけで
ほんとうは十全なのだから
絵・文:茅野カヤ
【335】
秋風が吹く
まだ残暑が続いている
でも足先が冷たくなってきた
冷え性の僕は靴下を履く
今から毛糸のふわふわの靴下を履くのを
楽しみにしている
今年の冬は冷えるだろうか
雪が少しでも見られるといい
気が早すぎるよ、と風に笑われる
紅葉はまだ
空が紅く染まるのを待つ
絵・文:茅野カヤ
【334】
迷い込んだ先は
地獄のような絶望と
まっさらな喜びと
複雑な感情の迷路だった
大きくなっても、小さくなっても
正解はなかった
正しさを主張することはできなかった
ただ自身のこころのままに
生きるしかなかった
答えはない
ずっと考え続け
歩き続け
探し続けるしかない
ただ、今、生きたいと願う
そう思えるのは、正しいと思いたい
絵・文:茅野カヤ
【333】
雨が降る
雪になる
星が降る
夢だと分かっている
それでも現実だった
てのひらに虹がかかった
白い鳩が飛び立つ
夢だ
夢でもいい
理想でもいい
現実にするのだ
それを共に、てのひらに何重もの虹を
僕らは共に在るはずだ
絵・文:茅野カヤ
【332】
目覚めの足音が上がってくる
階段はないはずでは?
月がずれて階段状になっている
重たい、砂を踏みしめるような足音
恐怖を感じてクローゼットに隠れる
近づいてくる足音に
何故か懐中時計を手にしていることに気づく
その秒針は心臓の音のように大きく響く
足音と、秒針と、心臓の音が重なる時
砂時計の砂が落ちきるように
目が覚める
絵・文:茅野カヤ
【331】
いくら手を尽くしても
失うものはある
いくら声を上げても
消されるものはある
それでも絶えないものを信じる
思うことを、考えることを、
信じることを、やめない
僕らは道化
彼らは裸の王様
それでも都合の良い道化にはならない
笑いを振りまく道化になるのだ
絵・文:茅野カヤ