#140字小説 少年の花嫁は腰の曲がった老婆だった。失笑の中で行われた婚礼のあと二人きりになると、老婆は凛とまっすぐ立ち、剣を抜いて言った。「これでお前は私の夫として玉座を請求する権利を得た」老婆は古き王家の最後の一人だった。「坊や、どの首から欲しい? どれからでも獲ってやろう」
※再掲です

#140字小説 少年の花嫁は腰の曲がった老婆だった。失笑の中で行われた婚礼のあと二人きりになると、老婆は凛とまっすぐ立ち、剣を抜いて言った。「これでお前は私の夫として玉座を請求する権利を得た」老婆は古き王家の最後の一人だった。「坊や、どの首から欲しい? どれからでも獲ってやろう」
※再掲です
#140字小説 元王妃は知らぬ罪で地下牢に落とされた。外は王の結婚式の最中。見張りが『うっかり』落としていった短剣はこれで自害せよということだろう。「お可哀想な王妃さま」誰かが呼ぶ。「血を一滴くださいませ」短剣で突いた指先を舐めさせてやると、鼠は敬礼して、笑った。「では始めましょう」
その女は目の前の色男に酔わされ、秘密にしておくべきだったことをぺらぺらと喋ってしまった。所属する騎士団の機密から、関係各所の力関係から、自らの出自から、名前まで。最後に女はさみしい、とつぶやき、にやりと笑って優しい言葉をかけた色男は悪魔だ。贄として申し分ないと女をさらって行った。
2026/09/18
#140字小説
#140字小説 「今夜は皆で焼肉に行くぞ」なんて珍しいことを父が言うから、僕は怖くなって身を隠した。僕か、兄か姉か誰かが、元の家やシセツに戻されるのかもと思って。すぐ見つかって焼肉屋に連れて行かれた。そこに僕より幼い痩せた女の子がいた。「お祝いだ」と父が言った。新しい家族だぞ。
※再掲です
朝みたいな深夜にガタンと大きな音がして目が覚めてしまった。どうやら使い魔の猫が酔っぱらって帰って来たらしい。契約でうまく縛れなかった魔女として未熟な私が悪いといえばそうなのだが、どうにもうちの使い魔は自由だ。私をほったらかして飲みに行くし、そうすると一部の魔法は使えないし。はあ。
2026/09/17
#140字小説
#140字小説 魔女は言いました。「12時の鐘が鳴ったら魔法は解けてしまう」「つまり」「その前に鐘を破壊せねばなりません」シンデレラは高くそびえる塔を見上げます。てっぺんにあるあの鐘を壊せるのは彼女だけ。「各階に敵が待っています」シンデレラは不敵な笑みを浮かべます。「行くわ」
※再掲です
その魔女の呪文は魔法を発動させるための古い言語であることを除けば、優しく穏やかで平易な言葉で綴られている。魔法に心得のあるものはこの魔女の呪文を聞いて恐れおののくのだ。こんなに優しく穏やかで平易な言葉でこんなに強力で残虐な魔法が展開するのかと。もちろん、魔女を怒らせてはいけない。
この時期はとても忙しい。あちらの葉っぱは赤で、こちらは黄色。そっちはまだ緑のまま。この実は甘く。子だくさんのリスがいるから。おっと、あっちの実は渋くしておこう。下の川が深くて、危ないからね。雨の温度調節も大事。あんまり低いと、稲穂から苦情が入ってしまう。ああ忙しい、忙しい。
2026/09/16
#140字小説
#140字小説 「あなたが……あなたが神ですか!」「違う……世界の管理者権限持ってるだけ」「管理者権限」「持ってるというか押し付けられた」「押し付けられた」「下手に技能持ってるとこういう面倒くさい役ふられる。下っぱなのに」「下っぱ」「トラブル起きる度に呼び出される」「トラブル」
※再掲です
美しいものに囲まれていたら私自身も少しくらいは美しくならないかと思っていたけれど、それはどうやら夢物語らしい。美しい絵。美しい彫刻。美しい食器。美しい宝石。美しい服。醜い私。仕方がないので顔を隠して美しいものたちを展示する館を開く。私が独占するなんてもったいない。ああ美しいもの。
今日の夕ご飯のためにスーパーに買い物に行った。少し野菜が足りていない気がするので野菜炒めを作ろう。目に入ったものからポイポイとカゴに入れていく。そこにシドメさんが通りかかる。挨拶して少し話をしていたら豚こまを足すようにアドバイスされた。バランスが大事なんだなあ。#140字小説
2026/09/15
#140字小説
#140字小説 先輩すいません、人魚の肉やっぱり無理でした。昔だったらうちの村で幾らでも……あ、がっかりしないでください。かわりにこれ。純粋な人魚の肉ではないんですけど、きっと少しは効果が。僕も先輩に生きてて欲しいですもん。食べてください。僕の腕の肉です。僕の祖母の祖母が人魚でして。
※再掲です
曇り空を蒸留すると煙になると思っていた。出来上がったのは雨で、空はすっかり晴れ渡る。氷を入れたグラスに蒸留した雨を入れる。カラリカラリと氷を鳴らし、一口。胃の腑にずんと重い。これに合うつまみは何だろう。爽やかで小さな秋なんかいいかもしれない。考えながら飲み進め、ずいぶん減ったな。
飴を作っている。うちはちょっとだけ特殊だから、よく見ていて。まずは適当な空き瓶をひとつ。透明なのがいい。そして星空。街中ではダメだ。味が落ちてしまう。そう、静かで星しか明かりがない場所。空に向けて瓶をひと振り。ご覧、藍色の瓶に白い小さな飴がいくつも入ってる。
2026/09/14
#140字小説
今宵はやけに静かだ。物音一つ聞こえない。もしかしたら世界は滅んでしまって私だけが取り残されたのだろうか?もしそうなら寂しい事だ。一人は好きだけれど、一人だけ残されるのは違う。遠くに車のエンジンが聞こえた。世界に取り残されていなかったんだと。今日は窓を開けて眠る事にする。#140字小説