【009】
間違った写真が現像される
浮き上がったものは穴だらけの遺影だった
もういない人に謝る
様々な後悔が多重露光している
世を憂いて
もういなくてよかったねって自嘲する
信じる存在はいた?
独りじゃなかった?
貴方だけだった
私の名を呼んでくれたのは
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】Dominant Industry No.26

【009】
間違った写真が現像される
浮き上がったものは穴だらけの遺影だった
もういない人に謝る
様々な後悔が多重露光している
世を憂いて
もういなくてよかったねって自嘲する
信じる存在はいた?
独りじゃなかった?
貴方だけだった
私の名を呼んでくれたのは
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】Dominant Industry No.26
【008】
通り雨のあとに虹がかかった
僕は下を向いていたから
水たまりにうつった色で気づいた
良いことがあるかも、とは思わなかった
とても憂鬱だったから
でも虹はとても美しかった
ただそれだけで美しいというのが
羨ましかった
繊細で華やかで、ひとときの美
僕が20代で死んだとしてそうはならない
だから生きてきてよかったと思った
憂鬱ではあるけれど
今のこの生は
不思議と楽しいこともあるのだと知ったから
こうして虹を見上げる
前向きにはなれないけれど
ひととき、美しいと思えた
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】星墨Starry Ink 未踏
【007】
君を隠してしまう
山に沈みゆく陽のひかりが
片頬に当たっている
風が鳴った
君の一言を聞き取れなかった
おそらく
そこからずれていってしまった
陽のひかりが反射して
君の目が煌々と光る
見つめられて初めて気づいたのに
いつしかそれは変わっていってしまって
だから二度と訪れないあの日を
こうやって幾度も思い出すのだろう
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】星墨Starry Ink 山のしづく
【006】
静かにふけてゆくのは
夜か老いか
ぽつぽつと増えた記憶違いに
疲れのとれなさに
眠る前の部屋の薄闇に
あと何年生きられるのだろうかと、思う
10代の僕も
20代の私も
途方もない残り時間に
未来なんて見えなかったけれど
今は振り返っている余裕もない
花が咲くように
きっと散るだろう
いのちの弾ける音に耳を澄ます
薄闇に僕の呼吸が響く
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】星墨Starry Ink 桜月夜
【005】
広がっていく霧が僕のなかで暴れる
一言も発しない霧を抑え込むのは難しい
なだめるように撫でても
抱きしめるように抱えても
指をすり抜けて溢れてゆく
僕が苦しむのを嘲笑うように広がってゆく
いつしか霧は深く濃くなって
僕の輪郭をも見えなくなる
同一化を受け入れられず心が暴れる
それでももう僕自身となった濃霧は
ひとりでに歩き出す
置いて行かないで、と見えない手を伸ばす
闇雲に伸ばす手を、濃霧が掴んだ
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】Hosia Ink Kau Mung
【お題】濃霧・深霧
【004】
夢が散る
目を開けても夢のかすかな香りがする
懐かしい香りだった
それは辿れずに霧散して
それでもまだ夢の余韻が残っている
何故かあの子のことを思い出している
夢に出てきたのかもしれない
輪郭はおぼろげで
確証を得られずにただ思い出している
名前を呼ばれたこと
マフラーに埋もれる笑顔
様々なことを開示したこと
手を握ったこと
僕はまだ
君の幸せを祈るだけの存在になれない
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】NEKO NO TE INK
【003】
夢の中で
真っ白な雪の中を歩いていた
雪は重く、背に汗が伝った
僕は雪しかない場所にいる
何処だろうとは思わなかった
此処は僕の中だ
足下に鮮血が落ちて
自分が怪我をしていることに気づいた
振り返ると点々と赤く散った跡
そうか、傷ついているんだ、と知った
手当てをしようと思った
そう思えるようになったのが新鮮だった
目覚めて手のひらを眺める
血の影もない
でも僕は傷ついている
もう大丈夫だと思う
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】SAILOR Ice Dance
【002】
夏の草いきれは影も形もなく
大嫌いなはずの夏にも寂しさが残る
緑生い茂る庭にしゃがみ込み
しばらく草の匂いを探していた
金木犀はもう散ってしまったかも
秋の匂いが立ち込める
雑草に触れ、そのざらざらとした表面を撫でる
僕はきっとこの雑草より弱い
ただ悪意さえあれば根絶やしにできる
その悪意が現れないことを祈りながら
少し湿った葉に触れている
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】Dominant Industry Olive Grove
【001】
青空が広がる
秋晴れだねって笑う先には
日向ぼっこをしている猫がいる
夜には星が綺麗に瞬くだろう
少しだけこれから来る冬に思い馳せる
いつかの冬とセットになったそれは
星より街明かりより眩しい
誰かの笑顔と重なった
絵・文:茅野カヤ
【使用インク】Dominant Industry Starry Night
明日から一日一兎(いちにちいっと)6年目開始です。お付き合いいただけましたら幸いです。
#うさぎ #インクドローイング #一日一兎
【365】
手を伸ばしても届かない星星に願いを
月日は巡るのだと
この歳になってようやく分かる
あのとき黄色いラインを越えていたら
あのとき落ちた階段で頭を打っていたら
あのとき窓枠を越えていたら
きっと届かないことも分からず
小さな欠片を手にすることもなかった
生きていれば、なんて言わない
ただこの世は何が起こるか分からない
良いことも悪いことも確かに起こり
時間が良くも悪くも薄れさせる
月は空高く
今は隠れた陽は
地球の反対側で煌々と照る
絵・文:茅野カヤ
【364】
月から滲み出た夜が空に広がってゆく
星が瞬き始め
僕の視界は光でいっぱいになる
寂しさは遠くなる
このひとときだけは意識の外に追いやる
美しいものだけが失念させてくれる
瞬きをしたら寂しさがまたたく
もう死にたいほどの寂しさはない
時間は進む
僕自身は進まなくてもいい
ただ在るだけでいい
絵・文:茅野カヤ
【363】
夜が明ける前にふと目覚める
時折あるこの目覚めに
名前がついていることを知ったのはいつだったか
夢は覚えておらず
ただ気分の良いものではなかったことだけが
喉元に淀んでいる
近頃は収縮も肥大もしなくなった
僕の身体は重く
ただ存在を確かめている
夢とうつつの分離だけが
世界を不確かにしている
絵・文:茅野カヤ
【362】
太陽が夜に染み込んで
視界が滲む
四角い夜が訪れる前に帰らないといけない
何処に?
いつだって還る場所がないことに驚く
死んだあとも何処にも行けないだろうと思う
途方に暮れるのを
好きなものを詰め込んだこころが否定する
嘘をついている気がする
それでも今このときを大切にしたい
矛盾したこころはやはり
何処にも行けないだろうと思う
絵・文:茅野カヤ
【361】
時計の針がひとつ進むごとに
僕のいのちの残数は減っていく
決して回復しないHP
MPをチョコレートと
ジャスミン茶で回復させて
またひとつ絵を描いた
鬱病で無駄にした残数を
今になって使い直している
それでもまだ足りないと思う
焦らないでってひとに言うのに
焦燥感が強い
引いた線は消えない
僕の生きた線も残ってほしい
絵・文:茅野カヤ
【360】
満月がいびつに歪んで見える
足元はふらつき
自身が酔っていることを思い出した
眼鏡をかけていないから
月も二重に見えるはず、と思い
不思議だった
今、僕が見ているのは月ではないのだろうか
酔いが不思議と冷めない
ずっと夢のような心地で
その大きな月のようなものを見ていた
どこまで歩いても月は正面にあるので
僕はついにおかしくなったのだな、と
少し安堵した
絵・文:茅野カヤ
【359】
夜を
沈む月を
喰らいつくしてゆく朝を
僕は憎む
包まった毛布をいっそう強く握る
泣いていた夜の庭で
月光がただただ美しかったのを思い出す
月明かりが見えない今の部屋が
青く染まるとき
絶望を繰り返していたとき
泣けなかったのを思い出した
絵・文:茅野カヤ
【358】
夢を見るときの
波が打ち寄せる音
灯台に光がともる音に耳を澄ます
波音にかき消された足音が近づいてくる
静かに夢が始まるのを
スクリーンで見ている僕
波音が遠くなる
かすかに潮の匂いがした気がした
絵・文:茅野カヤ
【357】
夜を疾走る
目指すは遠い惑星の
君に逢いにゆく
試練は日々日々やってくる
ひとつひとつ射抜いてゆく
墓標が立ち並ぶ軌跡を
ただひた疾走る
君はもう待っていないかもしれない
それでも僕は僕の意思に従って疾走る
自分勝手を許してと思う
涙は墓標に落ちて
点々と光っている
絵・文:茅野カヤ
【お題】十二星座・射手座
【356】
窓硝子にぼんやり映った影が
自身のものだと気づくのに少し時間がかかる
僕のほうが影みたいだったから
みんな僕に気づかないの
いつも声をかけると驚かれる
それがずっと悲しかった
だけど今は影でもいいかなって思う
猫みたいに気配を消して
忍者みたいに隠れ蓑を使って
魔法使いみたいに姿を消して
みんなを驚かせるの
ハロウィンが近づいているからね
絵・文:茅野カヤ